Petrarca, F., Canzoniere

69


愛神よ,生来の思慮ではお前に
太刀打ちできぬことはわかっていた.
数多き罠,数多き偽りの約束,
数多き残酷な手練手管を味わってきた.
4


だが今新たに私自身驚きを覚えることだが――
(当事者となった者のごとく,また
あの鹹い水の上,トスカーナの岸辺と
エルバ島,ジッリョ島の狭間で悟った身として語ろう)
8


私はお前の手を逃れようとし,旅路の中を,
風に,天候に,波に苛まれつつ,
世を忍び流浪の身として進んでいったのだ,
11


こうしてどこからとは知れずお前の使いが
やってきて,運命に抗う者,逃れようとする者は
災いなりと知らしめるがゆえにこそ.
14


COM. ――先のふたつ(67, 68)と合わせて1337年初めのローマ旅行の折の作と考えられる. 1. 生来の思慮:人間に具わる判断力. 7. あの鹹い水の上:là sopra l'acque salse. 海のこと.Vat. lat. 3195ではsopraの後にaが入っていてその下に小さく点が打ってある(取り除く意味?). 12-14. こうして……ゆえにこそ:第2聯の《驚きを覚える》に繋がる. 12. お前の使い:tuoi ministri. ‘cioè rimembranze e pensieri di quell'amore che il poeta fuggiva, o vero amoretti nuovi, occasioni di nuovi amori.’ (Leopardi Google_Books)

Vat. Lat. 3195
Vat. Lat. 3195

▲戻る