Petrarca, F., Canzoniere

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私はあたりの大気を残らず嘆息で満たした,
険しい山脈から甘美な野を眺めては.
其処で彼女は生まれ,わが心を
花咲く青春にも実りもたらす齢にも捉えたまま,
4


不意に旅立って天へと昇り,私をかような有様にする.
かくして我が疲れた両眼は
遙かに彼女の姿を探すもむなしく
あたりに乾いた地を残さない.
8


この山々にいかなる藪も岩もなく,
この川岸にいかなる枝も緑の葉も,
この谷間にいかなる花も草の葉もありはしない,
11


またいかなる水の滴もこの泉より出ではせず,
この森もこれほどに粗野なる獣を持ちはせぬ,
我が辛き苦しみのいかほどかを知らぬほどには.
14


COM. ―― 1. 嘆息で満たした:《この上なく苦い溜息で天と大気を満たし,とめどない嘆きで地面をくまなく濡らした》‘amarissimis suspiriis celum aurasque complevi largisque gemitibus solum omne madefecit’ (Petrarca, Secr. I p. 40 (ed. E. Carrara)). ただしこの言葉はアウグスティヌスによって発せられたものである. 2. 険しい山脈から甘美な野を:Valchiusaの山脈からAvignoneの野を. 3. 彼女:ラウラ. 4. 花咲く青春にも実りもたらす齢にも:詩人の若いときにも成年となってからも. 8. 乾いた地:涙に濡れずにいる所.1行目への註も参照. 9 - 14. この山々に……知らぬほどには:この一連の詩行は,ダンテ(Inf. XIII 4 - 8)を踏まえるもの.

2016/09/30


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