Petrarca, F., Canzoniere
231
私は己の運命に満ち足りて,
涙も羨みも懐かず生きていた.
たとえ他の者の境遇がより好いものであれ,
千の喜びもひとつの苦しみにさえ劣るものだから.
4
だが今はあの美しい眼
――それがための苦しみを悔いることは
決してなく,その苦しみのひとつたりとも失いたくない
――を
重く黒ずんだ霧が覆い隠してしまい,
我が生の太陽はほとんど消えてしまったかのよう.
8
ああ自然よ,慈悲深く冷酷な母よ,
かくも高雅なものを作り為しながら滅ぼそうとする
このような力と矛盾した望みとは何処から来るのか.
11
すべての力は唯ひとつの泉より発するもの.
しかし,至高の父よ,貴方の貴い贈物が
他の者に奪われるのをどうして許されるのか.
14
COM. ――
12. 唯ひとつの泉:Rvf. 164, 9では《生ける泉》がラウラについて使われているが,此処で下敷きになっているのは聖書の表現.Ier. 2, 13; 17, 13.
13. 至高の父:神.
14. 他の者:自然,病などの解釈がある.
2017/09/08
▲戻る
© 2016- Tetsufumi Takeshita All Right Reserved.