Petrarca, F., Canzoniere

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緑の草の上,二本の金の角を持つ
白く輝く雌鹿が私の前に現れた.
それはふたつの川の間,月桂樹の木蔭で,
若き季節の日が昇るときのこと.
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優美にして誇らし気なその姿は,
私に後を追ってあらゆる務めを放棄させるほど.
さながら宝を得ようと欲を出す者が
喜びで苦しさを紛らわすよう.
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「何人も我に触れてはならぬ――このように
その首にはダイアモンドとトパーズで記してあった――
我が自由は主カエサルの命ゆえに」
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今や太陽は正午に向かい,
我が眼は眺めることに疲れながらも飽くことはなく,
そのとき私は水辺へ落ちて,雌鹿は姿を消したのだった.
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COM. ―― 2. 雌鹿:ラウラを暗示する.金の角は彼女の金髪. 3. ふたつの川の間:アヴィニョンで. 4. 若き季節:春,また人生の青春期に. 9-11. 何人も……カエサルの命ゆえに:おそらくペトラルカは口承の伝説に基づいていて,『親近書簡集』中の記述以外に関連するものを見出せない.《捕まえた魚の腹の内に碧玉を見つけた者はより優れた漁師ではなくてより幸運な漁師であり,また古い時代の北方の地で――言い伝えを信じるならば――首に金の飾りをつけた鹿を捕まえた人もより優れた猟師だったということにはならない.その鹿の首飾りには非常に古い文字で「何人も我を捕らえてはならぬ」と書いてあり,これはユリウス・カエサルが放つよう命じたものだった》(Fam. XVIII viii 5)訳はRossi校訂のテクストによったが,Carrai(Carrai, S., 'Il sonetto "Una candida cerva" del Petrarca. Problemi d'interpretazione e di fonti', in Rivista di letteratura italiana III (1985) pp.233-251)は《「何人も我を捕らえてはならぬ,我を放つよう命じたのはユリウス・カエサル」》と括弧の範囲を変更する提案をしているようである(※この文献はあいにく未見).雌鹿がラウラとするとカエサルは神を暗示するか.

2017/07/26


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