Petrarca, F., Canzoniere

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忘却を一杯に積んだ我が船は
冬の夜半に荒れた海を進み行く,
スキュッラとカリュブディスの狭間を抜けて.
舵取の座に就くのは我が主,否,我が敵.
4


一漕ぎ毎に去来するのは,嵐と死が
嘲笑うかのような良からぬ思い.
嘆息と期待と憧れの,熄むことのない
湿った風が帆を破る.
8


涙の雨が,蔑みの霧が,
くたびれた,過ちと無知で綯い合わされた
索具を濡らし緩ませる.
11


甘美なるふたつの馴染みの印は姿を隠す.
波にもまれ理性も技術も死に絶えて,
港に辿り着く望みを失いかける.
14


COM. ―― 1. 我が船:人生の比喩. 3. スキュッラとカリュブディスの狭間:スキュッラは現メッシーナ海峡にある岩礁.カリュブディスは同所に起こる大渦. 4. 我が主,否,我が敵:愛神. 12. 甘美なる馴染みの印:航海の目印となる星.ラウラの双眸. 13. 理性も技術も死に絶えて:《技術》は航海の技.Cf. ‘nauita, confessus gelidum pallore timorem, | iam seqiutur uictus, non regit arte ratem.’ (Ov. Trist. I iv 11f.)

2017/07/26


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