Petrarca, F., Canzoniere

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恵み深き太陽よ,ただそれだけを私が愛し,かつて貴方が
愛したあの樹は,今麗しい場所にとどまって
青々と茂っている.それは,アダムが自らと我らにとっての
美しき災いをはじめて目にして以来比類なきもの.
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太陽よ,ともにあの樹を眺めていよう.私は貴方に
乞い呼びかける.だが貴方は逃れ,あたりの山々の
影を長く伸ばしていく.そしてその日を運び去り,
私が何より焦がれるものを奪い逃げていくのだ.
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かつて我が甘美なる炎が若くあり,
大きな月桂樹がかつて小さな枝木であった,
あの低い丘から落ちかかる影は
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こうして語る間にも伸びて,わが眼から
あの幸せな場所を見えなくしてしまう,
我が心が婦人とともに宿る場所を.
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COM. ―― 1. 太陽よ:ダプネーに恋したアポッローンへの呼びかけ.月桂樹に変化したダプネーとラウラ(=月桂樹ラウロ)とを重ね合わせる. 2. 樹:fronde. 月桂樹.Vat. lat. 3196 (fol. 1v)で取り消された草稿にはluce《光》とあった. 3f. 自らと我らにとっての美しき災い:l'addorno suo male et nostro. ここではイヴのこと.addorno《美しい,飾られた》という形容詞はダンテ『神曲 天国篇』でベアトリーチェについても‘veggendo quel miracol più addorno’ (Par. XVIII 63). 8. 逃げていく:ともに眺めようと太陽に呼びかけたところで空しく,一日は忽ちに過ぎて日が暮れ,愛しいものを見ることがかなわなくなる. 12. 語る間にも:mentr'io parlo. 3196写本の草稿ではa poco a poco《少しずつ》となっていた箇所.

2017/07/25


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