Petrarca, F., Canzoniere

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私が地上で目にしたのは,天使の如き出で立ちと
世に比類なき天上の美しさであった.
思い起こせば喜ばしくもまた苦しくもある――
私の眺めるかぎりのものが夢,影,煙と映るのだから.
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私は見た,太陽に幾度も嫉妬を抱かせた
あの双眸から涙の流れるさまを.
私は聞いた,山を揺るがし河を止めるような
言葉が,ため息混じりに語られるのを.
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愛,思慮,美徳,慈悲,苦痛,
これらが涙ながらに作りなしたのは,この世で
常々耳にする何よりも甘美な響き.
11


天はその調和に集中し,
枝の葉一枚さえも動くのが見えぬほど.
それほどの甘美さが大気と風とを満たしていた.
14


COM. ―― 4. 私の眺めるかぎりのものが……:Cf. Petr. Rvf. 1. 14. また夢,影,煙はいずれも儚いものの代名詞. 11. 響き:concento. 12. 調和:原語はarmoniaで,ペトラルカではここでしか使われないようである.


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