Petrarca, F., Canzoniere

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その金髪は風に拡がり
甘く無数に絡み合ってたなびいていた.
そしてその麗しき眼の優美な光は
限りなく燃えていた.だが今ではすっかり弱まっている.
4


真か偽りか判らぬが,その貌は
哀れみの色を帯びたかに見えた.
愛に満ちた火口を胸に持つこの私が
忽ちに燃え上がったとしても何の驚きがあろうか.
8


彼女の歩むその様は,死すべき人のものならず
天使の如き姿.そしてその言葉が響かせるのは
人間の声などでは全くない.
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私が見たもの,それは天上の霊,
生ける太陽だった.たとえ今はその姿が異なっても,
弓が緩んだところで傷が癒えるわけではないのだ.
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COM. ―― 3. 優美な光:vago lume. Cf. dulcia sidereas iactabant ora favillas...《甘美なるその顔は星の如ききらめきを放ち……》(Petrarca, BC 3. 14). 8. 私が燃え上がったとしても何の驚きがあろうか:Cf. Prop. 2. 3. 33. 9-11. 彼女の……全くない:『アエネーイス』1巻でアエネーアースが母ウェヌスにかける言葉を踏まえる.《貴女の姿は死すべき者のそれでなく,声の響きも人間のものでない》(Verg. Aen. 1. 327f.).またペトラルカは『わが秘密』の冒頭で乙女の姿をした「真理」を前にして同じ言葉を引用して呼びかけている.


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