Petrarca, F., Canzoniere

15


見る人に死の影を思い起こさせる
常ならぬ色の我が顔へその眼を向けて
慈悲ピエタが貴女を動かした.そうして慈しみ深き
会釈により我が心生命に繋ぎ止められたのだ.

私のうちになお宿るこの儚い生命は
5

明らかに貴女の眼と天使のごとく
爽やかな声より贈られた賜物.
私がこうして今在るのはそれらのおかげ.
つまり,鈍い獣がいつも鞭打たれるように
私の鈍重な魂をそれらが目覚めさせたのだ.
10

婦人よ,貴女がその手に携えるのは
我が心のふたつの鍵.それが私には満足で,
どんな風にも乗って船を進める用意がある.
貴女に由来するものは全て私には甘美な誉れなのだから.

COM. ―― 12. 我が心のふたつの鍵:「ふたつの鍵」はダンテ『神曲』にも出てくる.ピエロ・デッラ・ヴィーニャが神聖ローマ皇帝フェデリーゴ2世について彼の《心の鍵を握っていた》(tenni ambo le chiavi | del cor di Federigo, Inf. XIII 58-59)とか,あるいはペテロがキリストから与えられた天国の扉の鍵(つまりペテロの代理としての教皇の象徴として)について(Inf. XXVIII 103-104). 14. 甘美な誉れ dolce honore. Cf. ‘Maecenas ... | ... dulce decus meum’ (Hor. Carm. I i 1-2).

2017/11/13


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