Petrarca, F., Canzoniere
60
私が長年強く愛した高貴な樹
――
あの美しい枝葉が私を蔑することのないときに,
この弱々しい才能はその影の下
花を咲かせ,苦悩の内に育てられたのだ.
4
そして策略を身に受けるとは思いもよらぬまま,
その甘美な姿は無慈悲な木へと変わってしまい,
それ以後私が巡らす想いはどれも皆ひとつの的へ向かい
この辛い苦しみを語り続けるのだった.
8
何と言うことだろうか,恋に嘆息漏らす人が
私の若き日の詩によって違った望みを抱き,
今の有様によってそれを失うならば
――11
「詩人がその葉を摘むことなく,ユッピテルも
それに特権を与えることなく,太陽にも憎まれ,
そしてその緑の葉が尽く枯れてしまえばよいものを」
14
COM. ――
1. 高貴な樹:月桂樹.
7. ひとつの的:苦しみを語ること,それにより詩人を苦しめること.
10. 若き日の詩:恋人が豹変する以前のそれ.
違った望み:l'altra speranza. 今のそれとは違う,楽しく幸せな恋への望み.
12-14. 詩人が……よいものを:第3聯に述べられた読者が口にするかもしれない内容と解釈する.
12. 詩人がその葉を摘む:月桂樹の冠(=詩人の栄光)を得るべく.
13. 特権:月桂樹は雷に打たれないと考えられた.
太陽にも憎まれ:ダプネーとアポッローンの話を踏まえる.
2017/11/16
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