Petrarca, F., Canzoniere

56


我が心を滅ぼす盲目の憧れのために
私自身が刻を算え間違っているのでなければ,
こうして語る間にも,慈悲により約束された
出会いの時は逃れ去っていく.
4


念願の稔りを間近にした実を
萎れさせるほどむごいのはどんな影か.
我が羊小屋のうちに吼えるのはどんな獣か.
麦の穂と手の間にあるのはどんな障壁か.
8


ああ,私はそれを知らないのだ.しかしよく判っているのは,
愛神が,我が生を一層苦悩で満ちたものにするために
これほどに喜ばしい期待をもたらしたのだということ.
11


そして今我が胸のうちに浮かぶのはある書の言葉,
人間は最後の旅立ちの日に至るまで
幸福であると呼ばれることはできないのだ,と.
14


COM. ―― 3. 語る間にも:‘dum loquor, hora fugit’ (Ov. Am. I xi 15) 慈悲により:ラウラの慈悲. 12. ある書の言葉:人間は生を終えるまで幸せかは判らない,という話はソローンがクロイソスに語った言葉(Hdt. I xxxii)として有名でラテン語作家のうちにも伝わるが,ペトラルカの念頭にあったものとしてはオウィディウス『変身物語』のカドモスとテーバイ市の建設に関する箇所かと思われる.‘sed scilicet ultima semper | exspectanda dies homini est, dicique beatus | ante obitum nemo supremaque funera debet’ (Ov. Met. III 135-137).

2017/07/31


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