Petrarca, F., Canzoniere

55


冷たい季節ともはや若くはない齢により
消し去られたものと思っていたあの火が
魂のうちに燃える苦しみを甦らせる.

どうやら火の粉は全てが消え去ったわけではなく
幾許かが隠れて残っていたようで,
5

二度目の過ちが一層非道いものにならぬかと私は怖い.
火種の宿るこの心から
苦しみが眼を通して滴り出て
幾千の涙となって振り撒かれるのも無理はない.
しかもこの苦しみはかつてと違い,まるで大きく育っていくよう.
10


何たる炎か,悲しみに暮れる眼から絶えず流れ出る
滴によって消し去られることがないとは.
愛神の狙いは――気づきはしても時すでに遅く――
相反する二つの間で私を消耗させること.
そして様々な罠を張り巡らして,
15

この心の逃れ出る望みが高まるほどに
一層美しい姿で私を捕らえて離さない.

COM. ―― 2. あの火:恋の炎. 9. 幾千の涙となって振り撒かれる:Per lagrime ch'i' spargo a mille a mille. 底本のSantagataの句読点にしたがって訳したが,Zuliani (Una possibile correzione interpuntiva al «Canzoniere» di Petrarca, «Critica del testo» III (2000): 807-816 academia_edu)は句切りを変えることでこの一行を前の行の《二度目の過ち》につなげることを提案する(‘Con tale interpunzione le lagrime divengono il segno della gravità del secondo error; infatti è attraverso gli occhi che il duolo da esso provocato deve uscire dal cuore, dove è nato dal fuoco; ed ora pare più grande che la prima volta’ Zuliani 2000: 809). 14. 相反する二つの間:恋の炎と悲しみの涙(=水).

2017/12/27


▲戻る