Petrarca, F., Canzoniere

35


私はひとり物思いに沈み,まるで人気のない野を
重く遅い足取りで計りながら進んでいく.
そして注意深く目を配るのだ,人の足跡が
砂地を押す場所を避けるべく.
4


それ以外にはないのだ,世の人々に
はっきりと知られることから我が身を守る術は.
というのも振舞に喜びが消え失せてしまえば,
いかに我が内面の燃えているかが外見に読み取れるから.
8


かくして私は山や丘,川や森が,
他の者からは隠れた我が生の
どんな有様かを知るのではと怪しんでいる.
11


だがしかし,愛神が絶えず私に語りかけず
私も彼と語らぬほどに厳しく鬱蒼とした
道を探し出すことはできないのだ.
14


COM. ―― 1f. 私はひとり……進んでいく:Cf. ‘haec certe deserta loca et taciturna quaerenti | et vacuum Zephyri possidet aura nemus. | hic licet occultos proferre impune dolores’ (Prop. I 18, 1-3). 5f. 世の人々に……知られることから:世間に自分の内面が知られてしまわぬように.Cf. Rvf. 1, 9-11. 11. 怪しんでいる:mi credo. ここは疑いや恐れを表していると思われる. 12f. 愛神が……語らぬほど:人目を避け山野へ逃れても恋の想いだけは付きまとう.ペトラルカは『わが秘密』の中で,恋の治療法としては孤独は危険であるとオウィディウスの引用を交えてアウグスティーヌスに語らせている(Secr. III ed. Carrara, p. 174). 13f. 厳しく鬱蒼とした道:sì aspre vie né sì selvagge. Cf. ‘esta selva selvaggia e aspre e forte’ (Dante, Inf. I 5).

2017/04/13


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