Pvblivs Ovidivs Naso, Tristia

I, 4


エリュマントスの熊を見張る者は大洋に浸り,
 その星で西の海を波立たす.
されど私がイオーニアー海を割き進むのは己が意志にあらず,
 恐れのために大胆にならざるを得ないのだ.
哀れな私! どれほどの風に海は膨れ上がり,
5

 水底から掘り返された砂が沸き立つことか.
山にも劣らぬ波が舳先と曲がった艫とに
 飛びかかり,神々の像に打ち寄せる.
松材で組んだ船体は波に打たれて音を立て,索具は軋み,
 船までもが我が不運に呻きを上げている.
10

水夫は青ざめ,冷たい恐怖をあらわにし,
 今や打ちのめされなす術なく,その技で船を御することもできない.
さながら無力な騎手が,甲斐のない手綱を
 屈強な馬の首に投げ出してしまうように,
目指す方へではなく,並みの衝撃が攫っていく方へと
15

 馭者が帆を船に任せてしまったのが見える.
風神アイオロスがその放つ風向きを変えなければ,
 今近づくべきでない場所へと運ばれていくことだろう,
イッリュリアを遠く左手に残して,私には
 禁じられたイタリアが見えるから.
20

願わくは,風が禁じられた土地へ向かうのをやめ,
 私とともに大いなる神に従ってくれますように.
私が語り,追い返されるのを望み且つまた恐れている間に
 船の横腹を打ち鳴らす波の力のなんと大きなことか.
許したまえ,青き海の神々よ,許したまえ,
25

 ユッピテルが私に敵意を懐くので充分としたまえ.
やつれ果てた命を冷酷な死から救い出したまえ,
 一度滅んだ者に再び滅ぶことができないならば.

COM. ―― 1. エリュマントスの熊を見張る者:《エリュマントスの熊》はカッリストーのことで,すなわちおおぐま座.それを見張るのは牛飼い座. 2. 西の海:底本Hallの修正案occiduasで,写本は一致してaequoreasを伝え,その場合《海の波を乱す》くらい. 8. 神々の像:船尾にお守りとして神々の像をつけた.これはtutelaと呼ばれた(Cf. Sen. Ep. 76, 13.). 14. 馬の首に:ceruici ... equi. 底本Hallの修正案.写本伝承はceruicis ... equo. 16. 馭者:aurigam. 直前の喩えとの関連でこの《馭者》が水夫を指すことは理解できる.Némethyは‘Auriga ... ratis, i. e. gubernatorem; ratis scripsi pro rati, ut cum auriga apte iungatur.’と属格に修正する案を出してはいる(Némethy, G., Commentarius exegeticus ad Ovidii Tristia, Budapestini 1913: 25). 25. 許したまえ:parcite. 写本の読みは割れていて,底本のHallはparcite caerulei uos parcite ... と二度繰り返されるものを採るが,Luckは反復を不良としてuos saltemという読みを採る.その場合,《せめてあなた方は》となって次行のユッピテルとの対比が強く出る形になる. 28. 一度滅んだ者に再び滅ぶことができないならば:si modo, qui periit, non periisse potest. 追放と死とを重ね合わせている.„Selbst wenn Ovid diesen Sturm überlebt, ist doch seine bürgerliche Existenz durch die Relegation vernichtet.“(Luck, ad loc.)

2017/03/13


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