底本は基本的には
(ed.), M. Valerii Martialis Epigrammata, Stuttgart, B. G. Teubner, 1990によるが, (recogn.), (ed. corr. cur.), M. Valerii Martialis Epigrammaton libri, Leipzig, B. G. Teubner, 1976も参照. (eds.),Selected Epigrams, Cambridge: Cambridge University Press, 2003. (ed. & transl.), Epigrams, 3 voll., Harvard University Press, 1993. A Commentary on Book One of the Epigrams of Martial, London: Athlone Press, 1980. Martial: Epigrams Book Two, Oxford: Oxford University Press, 2004; Martial Book XI: A Commentary, London: Duckworth, 1985.COM. ―― 1. ステッラ:L. Arruntius Stella. マールティアーリスのパトロンの一人で,アマチュアの詩人でもあった. 2. ウェーローナ:カトゥッルスの生地. 3. カトゥッルスの雀:カトゥッルスが雀について歌った有名な詩二篇を指す. 5. ステッラの方が立派なのだ:表面上はカトゥッルスの雀を歌った詩よりもステッラの鳩を歌った詩の方が優れるという追従の詩だが,マールティアーリスがここに猥褻な意味合いを新たに付け加えていると見る解釈もありうる.XI, 6も参照.
COM. ―― 4. そうなるように: ne mea sint. ‘ut tua dicantur haec carmina’ ( ). 私のものとならぬよう,買って権利を手にするがよい,ということか.Cf. II, 20.
COM. ―― 1. 埋葬人:vispillo. フェストゥスによると,屍体を埋葬することを仕事にしている人々で,貧しくて葬儀の行列を催せない者を《夕刻に》(vespertino tempore)運び出していくことからそう呼ばれるようである(Fest. ed. Mueller, pp. 368f.).
COM. ―― Cf. III, 57.
COM. ―― 2. 自分が朗読したい:自作を朗読して聞かせたい,ということ.他人の朗読にうんざりする話はユウェナーリスにも見える(Iuv. 1. 1ff.).またPlin. Epist. 1. 13も参照.似た趣旨のマールティアーリスの詩はV, 73; VII, 3など.ただ,原文の採り様によっては,《自分で(=自分のものとして)朗読したい》という可能性もある(Cf. II, 20). は両方の可能性を注記してくれている.
COM. ―― ficusという名詞には第2変化(pl. acc. ficos)と第4変化(pl. acc. ficus)と二通りの変化があり,意味も《無花果》と《痔》の二通りがある. ラエティリアーヌスよ:Laetiliane. 珍しい名前.異読に《カエキリアーヌスよ》(Caeciliane)というものもある.
COM. ―― 何か「大きなもの」を書けという友人への返答.マエケーナースのような庇護者があれば,大きな見返りのあるそうした試みもしてみようが,今や彼のような庇護者はもうおらず,そのようなところで「大きなもの」を書くのは不毛の地を耕すごとく無駄である. 1. ルーキウス・ユーリウス: は詩人の友人であるIulius Martialisとしているが(cf. I 15),他にCerialis(X 48. 5; XI 52), Rufus(X 99)という候補人物があり, は自身詩人でもあるこの二者のいずれかである可能性の方が高いという. 2. 怠け者:desidiosus homo. 次行の《暇》(otia)が学問や文芸活動と結び付けられるのに対して,こちらは否定的なニュアンス.
COM. ―― 2. 君はもっと短いのを作らないのか:tu breviora facis? 通例は《君はもっと短いのを作る》(tu breviora facis.)と平叙文. はこのように疑問文に校訂し,ウェーロクスに批判する権利が無いことを謂う,とする(Loeb版の註).しかしそのことは二文目の《自分では何も書かない》までで充分含意されていると考えられる.むしろ平叙文のままで,《もっと短い》(breviora)をいわば述語的に考えて,《君の作る方がもっと短い(=何も書かないのだからある意味一番短いものを書いている)》とすることもできる.辛辣さはこちらの方が高いように思われる.
COM. ―― この序文はγ系統の写本では脱落している.Cf. The Ancient Editions of Martial, Oxford 1903: 17 Int. Arch. 宣伝役:curio. ここではpraecoと同義なのでこう訳した. トガを纏った踊り手……:もったいぶった手紙のついたエピグラムはトガを纏って踊りを踊るように不釣合い・不恰好. 投網剣闘士:retiarius. 剣闘士(gladiator)の一種で,網と三叉の槍で武装した. もし君が……どうだろうね?:つまり,デキアーヌスの助言を聞かずに序の手紙を書いていたらそれはどんなに長たらしいものになっただろうか,と.
COM. ―― 1f. 耐えられる……耐えて:いずれも同じferoという動詞で,ひとつ目は《本にそれだけのエピグラムが載せられる》意味,ふたつ目は《堪えられる》意味で洒落になっている. 9. 五勺:原語はquincunxで《12分の5》.ここでは1 sextariusの12分の5で,1 sextarius = 12 cyathiなので5 cyathi. 10. ぬるくなり始める前に:特に冬場には,酒を温めたりお湯で割って飲むことがあった.
COM. ―― 4. 行を急いで算えるうちに:properat versus annumerare. 行から行へと書き写していく様.また,写字生は写した行数に応じて支払いを受けた. 駄目にしてしまった:写字生の誤写とそれへの修正についてはVII, 11; 17も参照. 7. 「でもこれらは非道い出来だ」:読者の反論を先取して.
COM. ―― 1. ならば応えてはくれまい:non dabit ergo. この文脈でdoには《(返事を)くれる》というだけでなく,《(恋人の)求めに応じる》ような意味もあると考えられるのでこう訳してみた. 2. ならば応えてくれるだろう: はLoeb版の註で,手紙の内容には何か脅迫的なことが書かれていたかと問うている.一方手紙の内容の問題から離れると,オウィディウスは『恋の技法』で恋文に関して,《(相手の女性が)手紙を受け取らず読まないで送り返してきても,読んでくれるものと期待せよ》(Si non accipiet scriptum, inlectumque remittet, | lecturam spera, Ov. Ars Am., I, 469f.)とか,相手の女性が返事をくれなくても無理強いをせぬこと,読んでくれたなら返事もくれよう,はじめはつれない返事でも粘ればいずれ想いは成就する云々(I, 479-486)と述べており,これを参照させる のアプローチの方が の曰うように効果的かもしれない( M. Valerii Martialis epigrammatum libri XV, Venetiis 1739 Google Books).
COM. ―― 1. 自分の詩集:sua carmina. suaを述語的に考えると《自分の詩集として》となって一層はっきりとする. 2. 正当に……呼べるだろう:possis iure vocare tuum. マールティアーリスの写本伝承は3つのグループ(α,β,γ)に分かれるが,このうちβではこのエピグラムの2行目は欠落しており,γ系統はpossis dicere iure tuumと伝えている. はこの異読が著者自身にまで遡る可能性に触れつつも,iure vocareの語末の類似からvocareが脱落し,不完全になった詩行がdicereによって埋め合わされたのではないかとも述べている( The Ancient Editions of Martial, Oxford 1903: 15 Internet Archive).
COM. ―― 1. 右手を差し出す:友好・挨拶の印として.Cf. Suet. Dom. 12.
COM. ―― 4. アレをしゃぶるようなもの:fellat. ピライニスの身体特徴を嘲りつつ,「禿(毛がない)で,赤らんでいて,片目のものは何か(答:男根)」という謎かけをも含んでいると思われる.なお,α系統に属するT写本(Paris. lat. 8071)では猥褻なオチの4行目が脱落している(Gallica).
COM. ―― 1. 肛門を洗って:subluto podice. subluoは特に下半身を洗う意味. 何だって……するんだい?:写本どおりにquid ... ?として読んだ. はquid ... ?の疑問文を‘a foolish question’であるとしてquodに修正するが(‘Corrections and Explanations of Martial’, in CPh 73, 1978: 275),2行を一文にしてしまうのは の言うとおりぎこちないものに思われる. 2. もっと汚く……浸けな:ゾイルスは口淫を行うのでその口は肛門よりも汚れている,と.
COM. ―― 2. 三人分:彼女自身とその両乳房.このエピグラムに対する の説明(M. Valerii Martialis Epigrammaton Libri, Leipzig 1886: 264 Internet Archive)に は例によって激しく噛み付いている(‘Corrections and Explanations of Martial’, in CP vol. II, 715)が,あまり本質的な議論には思われない.Cf. ‘Housman on Friedlaender (Mart. Epigr. 2.52): An Unnecessary Criticism?’ in Liverpool Classical Monthly 15, 1990: 107-108. academia.edu
COM. ―― 2. 車軸に油を差すには便利:utilis unguendis axibus. 脂ぎっている(pinguis)ということ.pinguisには《愚鈍な,洗練されてない》というような意味がある.Cf. ‘Corrections and Explanations of Martial’, in JPh 30, 1907: 234 (=CP vol. II, 715). 3. 巨像:ここで言及されているのは「黄金の館」(Domus Aurea)に建てられたネローの巨像と思われる(Suet. Nero, 31,1).後にウェスパシアーヌスがこれを太陽神の像へと改装したとされる(Plin. NH XXXIV, 45). 4. ブルートゥスの小像:ブルートゥス(M. Iunius Brutus)が大事にしていたとされる少年像. 5. マルススや学識あるペドー:Domitius MarsusとAlbinovanus Pedoのことでいずれもマールティアーリスが自身のエピグラムの範とした詩人. 6. ひとつの作品:エピグラムひとつで,ということだろう. 二頁:便宜上《頁》と訳したが, の言うように,冊子本の頁ではなくパピルス巻子本での「柱」(カラム)のことであろう.
COM. ―― 2. 温浴室:thermae. 浴室が冷えていることに皮肉を言っている.thermaeはギリシア語のθερμός《温かい》に由来する(Isid. Etym., XV, 2, 39).
COM. ―― ナーシーカの不自然な(作為的な)招待を断るエピグラム. 1. 来客があるのを知っているとき:cum scis vocasse. ナーシーカは,マールティアーリスに来客があって自分の招きに応じられないのを承知の上で誘っていて,マールティアーリスの方もそれを見抜いて答えている.なおvocasseはα, β系統の読みで,γ系統はvocatumとなっており,その場合はマールティアーリスが誰か他の人から招きを受けていることになる.
COM. ―― 1. ファンニウス:アウグストゥスへの陰謀を企てたFannius Caepioともされるが,この人物の自殺は記録になく,特定は困難. 2. 殺されたくないから死ぬ:ne moriare, mori.
COM. ―― 5. 一杯食わすこともできる:potest et irrumare. irrumoは《吸茎させる》という意味の猥褻語彙だが,その性的含みが薄れて‘ludibrio habere, contumelia afficere, bonis aliqquem defraudare’(Forcellini s. v.)のような意味にもなるらしい. このエピグラムについては の解釈に従った.‘Martialis II 83 moechum naso et auribus carentem nihilo setius uxorem permolere posse dicit atque eo ipso facto insuper maritum irrumare, hoc est uindicta ad irritum redacta ultro ei illudere’ (‘Praefanda’, in CP vol. III, 1181).
COM. ―― 2. 水の中を泳ぐ奴みたいな顔した:faciem sub aqua natantis habes.《青白い顔》ということか.オウィディウス『変身物語』に出てくる,蛙になったリュキアの農夫たちについての描写(quamvis sint sub aqua, sub aqua maledicere temptant VI, 376)を参考にして蛙のような顔のことと考える向きもあるが不詳.いずれにせよ,《恋に燃えている》という表現と《水の中》という喩えの対比,セクストゥスの外見への罵倒がこのエピグラムの眼目.
COM. ―― マーメルクスの詩の腕前を貶したエピグラムで,つまり彼が詩人として自作を人前で朗読しようものならもう詩人として見てもらえる可能性はなくなるだろうという皮肉.
COM. ―― 1. ガウルス:同じ名前は他のエピグラムにも見えるが,特定の人物を指しているのかは判らない. 2. カトーと同じ:ここで念頭に置かれているのは小カトーのことと思われる.大酒呑みであったらしい(Cf. Plin. Epist. III, 12). 3. アポッローンも詩女神もなしに:詩神からの霊感も受けずに. 4. キケローもそうだったから:キケローの詩の腕前はまずかったと言われる. 5. 嘔吐するのは:アントーニウスが酒量を過ごした結果公衆の前で嘔吐した話はキケロー『ピリッピカ(アントーニウス弾劾)』に見える(Cic. Phil. II, 63). アピーキウス:アピーキウス(M. Gavius Apicius)はティベリウス帝時代の有名な美食家・放蕩家.同名の著者に帰される『料理書』は4世紀頃のもの.
COM. ―― 2. あちらの方がもっと内気:plus ille pudoris habet. 書物を擬人化している.意味については, が引いている (M. Valerii Martialis epigrammaton liber primus, Firenze 1975: xiv-xviii)の解釈――第一巻の公表時点では,単純にM. VALERII MARTIALIS EPIGRAMMATON LIBERのように題されていて,続刊を期待させる《第一巻》(LIBER I)のようには書かれていなかったため,その点で三巻以降をも予想させる《第二巻》よりも《内気,控えめ》とされる――がよいかもしれない.
COM. ―― 4. 若鮪:cordyla. 鮪の子どものこと(Cf. Plin. NH 9. 47).鯖の類とする解釈( , A Glossary of Greek Fishes)もあるらしい. 6.ファウスティーヌス:マールティアーリスのパトロンの一人. 7. 杉の樹脂:書物を虫食いから守るために杉の樹脂(cedrus)を塗付した. 8. 臍:umbilicus. 巻子本を巻き付けてある軸の両端. 9. 顔:frons. 巻子本の両端面.そこから彩色された「臍」が突出する. 12. プロブス:M. Valerius Probus. フラウィウス朝時代の著名な文法家・文学研究者(Cf. Suet. Gram. 24. 1ff.).
COM. ―― 1. ターイス:娼婦の名. 「どのターイスだい」: はここだけを引用符に入れるが, のように全体を対話体のエピグラムとする方が軽快さがある.
COM. ―― 2. 誰も……ならない:non scribit, cuius carmina nemo legit.
COM. ―― 2. 冷たくて:frigida. 単に態度がということではなくて,性的な無反応を意味するとWatson. キオネー:Chione. 娼婦の名前.ギリシア語のχιών《雪》に由来する.《冷たい》ことではその名の通りだが,色黒ではその名に偽り有りとなる.奴隷などにその外見的特徴と正反対の名をつけることがあったらしい.《侏儒の奴隷をアトラースと呼び,エティオピア人を「白鳥」と呼ぶ……》(Iuv. 8. 32f.)なお原詩では2行目の一番最後にChioneの語が来て落ちがつく構成.
COM. ―― 1. ラウェンナで:Ravenna. ポー河河口付近の湿地帯に位置し,ワインを多く産出する反面,しばしば飲料水に事欠いた(Cf. Sid. Apol. Epist. 1. 5. 6).古代ではワインを水で割って飲むのは普通だが,節約のために水で薄めたのを客に出すこともあったらしく,ラウェンナという土地の事情が,そうした通例と反対の状況を生んでいる点に,この詩の可笑しさがある.Cf. I 56.
COM. ―― 1. 船:原語はcarina《竜骨》で,「全体に代わる部分」(pars pro toto)により船そのものを指すのは珍しくないが,ここでは《走ってる》(currente)とかける狙いもある.carinaとcurrereに語源的な結びつきを見出す例があったらしい.Cf. Isid. Etym. 19. 2. 1. 2. パリヌールス:『アエネーイス』の中で,アエネーアース一行の操舵手を務める人物の名.本来はπάλινとοὖροςから《後方を見張る者》であるはずが,πάλινとοὐρεῖνで《再び放尿する者》と考え直した上での地口.
COM. ―― 1. 私の本を譲ってほしい:古代では本はもともと著者とその属するサークル内で流通する小規模なもので,著者が自分のサークル外にいたり,知り合いが写しを持っていない場合には,書店へ赴き購入するものだった.クイントゥスは親交をあてにして無料で本を手に入れようとするがマールティアーリスがそれを素気無く断るところに可笑しさがある. 2. 本屋のトリュポーン:クインティリアーヌス『弁論家の教育』冒頭にこの人物の名が見える. 3. 戯言:nugae. Cf. Catul. 1. 4. 4. 私だって御免だね:写しを作る際の費用は著者持ちであったらしい.
COM. ―― 1. 父フロントー,母フラッキッラ:マールティアーリス自身の父母と考えるのが妥当. 3. 小さなエローティオン:おそらく愛玩奴隷(delicium)であったものと思われる.こうした囲いの奴隷をわが子のように可愛がる人々がいた. 7. いまは:iam. は写本のtamを採り,その場合は《かくも年老いた保護者のもとで》となる.しかしHeinsiusのiamという修正案には,「娘の寿命」→「冥府での望ましい姿」という流れが鮮明になる利点がある. と同様,後者にしたがって読んだ. 9-10. 大地よ……重たくはなかったのだから:墓碑銘としてしばしば見られるsit tibi terra levis《大地があなたに軽くありますように》を踏まえ,そこに《時ならぬ死》(mors immatura)を悼む意味を加えた.
COM. ―― Cf. I, 63.
COM. ―― Cf. V, 10.
COM. ―― 3. 本じゃなく嘆願書:原語はそれぞれliber, libellus. 9. クィリーヌスの柱廊:クィリーヌス神殿はクィリーナーリス丘のAlta Semita通りの北側にあった.《お隣の》というのはマールティアーリスがその近くに住んでいたため(cf. X, 58, 10). 10. ポンペイウスの柱廊:前55年に,ポンペイウスによって劇場とともに建てられた柱廊. アゲーノールの娘:エウローペーのこと.此処で言われている柱廊は,おそらくCampus MartiusのSaepta Iuliaの傍にあったものと思われる. 11. 最初の船の軽薄な主イアーソーンのこと.《軽薄な》とはメーデイアに対する彼の態度を指して.ここで言われている柱廊はporcus Argonautarumのことで,同じくCampus Martiusの,パンテオンとイシス神殿の間あたりにあったらしい.前26/25年に建てられ,ポセイドーンの柱廊(στοὰ τοῦ Ποσειδῶνος)とも言われた(Cass. Dio, 53. 25). 13. 紙魚:tinea. 本や衣類を食う虫. 15. スコルプスやインキタートゥス:いずれも競技戦車の馭者.Flavius Scorpusは当時非常に有名で,マールティアーリスは彼の若き死を悼むエピグラムを書いている(X, 50; 53).
COM. ―― 2. 鎌持つ老神:サートゥルヌスのこと.父ウーラノスの男根を切り取ったクロノスと同一視されたためこのように言われている.サートゥルナーリア祭は12月17日に行われた. 3. フェルト帽:pilleus. サートゥルナーリア祭のときにこれをかぶった.元来は奴隷が解放される際に身につけた帽子で,そこから自由の象徴となり,ネローの死には市民がこれをかぶって喜んだという(Suet. Ner. 57, 1). 9. 杯に半々の酒を:dimidios. ‘Halb Wasser, halb Wein’という ( Internet_Archive )の解釈によった.杯の半分まで( )という可能性もある. 10. ピュータゴラース:ネローと「結婚」させられた去勢された解放奴隷の名(Tac. Ann. XV, 37).同種の「結婚」が行われたことはSuet. Ner. 29参照. 13f. 酒を飲めば……力を貸してくれよう:酒の力で詩的霊感を得る. 14. カトゥッルスみたいな:《千の口づけを私にくれ,それから百を,さらにもう千回,さらに重ねてもう百回,その上さらにもう千回,そして重ねてもう百回……》(Catull. 5, 7ff.)を踏まえる. 15. あの詩人が言ったほどの量:カトゥッルスの前述の詩は,《悪い奴が口づけの数を知って嫉妬しないように》と結ばれる. 16. カトゥッルスの雀:passerem Catulli. ここで詩人は給仕の少年に向けて語っている.複数の解釈が可能で,(a)文字通り雀を贈物としてあげる可能性,(b)カトゥッルスがレスビアの雀を歌った(Catull. 2; 3)ような詩をあげる可能性,(c)《カトゥッルスの雀》が男根を意味していて,詩人と少年の性的交わりを示唆している可能性がある.このエピグラムの文脈としては,サートゥルナーリア祭の奔放さ,酒の援けによる詩作,口づけの要求という流れのなかで(c)のような意味合いを(少なくとも背景に)読み取るのは不自然ではないと思われる.尤も下敷きになっているカトゥッルスの詩そのものにまでそうした猥褻な意味があると考えるのは行き過ぎであろう.なお底本の はPasseremと大文字に作るが解釈の幅を持たせて小文字passeremの読み方に従った.
COM. ―― 1f. カトーの妻や……読むためのもの:猥褻な内容を持たない第5巻や第8巻が考えられているか. 5. コスムス:香料商の名前.Cf. Iuv. VIII, 86. 11. ヌマ:ローマ第2代の王で,敬虔さで名高い.
COM. ―― 1. 活々としたエピグラム:vivida epigrammata. 2. 死んだような題材mortua lemmata. lemmaにはいくつか意味があるが,ここでは《題材》くらい. 何故:quid. (および )はqui《如何にして,何によって》にするが, や に従いquidで読んだ. 3. ヒュブレーやヒュメットス:ヒュブレーはシキリアの山,ヒュメットスはアテーナイ付近の山の名でいずれも蜂蜜で有名. 4. コルシカのタイム:タイム(thymum)から作る蜂蜜が最良とされる(&lswuo;sic ex alia re ut e fico mel insuave, e cytiso bonum, e thymo optimum’, Varro, R. R. 3, 16, 26)が,コルシカの蜂蜜は質が悪いとされる(‘Corsicum et Sardum mel pessimi saporis est’, Porph. ad Hor. A. P. 375).アッティカは蜂蜜で名高いため,詩人を蜜蜂,詩を蜜に喩えて,上手い詩が出来ないのは詩人のせいではなく与えられる題材のせいだと言っている.
COM. ――captatio《遺産狙い》を諷した詩. 1. ブルートゥス:L. Iunius Brutusのこと.前509年の執政官.
COM. ―― 1. メーウィウス:Mevi. はMaeviという読みをとって《マエウィウスよ》. 2. ちんこ:verpa. ここでは次行の《一物》(mentula)と同じもの.原意としては包皮の剥けたそれ(cf. LSV 12ff.). 小便をし:meiere. ここでは射精することを意味していると思われる(cf. LSV 142). 4. 頭:caput. 亀頭の意味. 6. 一番上の:summa. 口のこと.勃起不全に対する口淫の処置は他にIII 75, 5f.; IV 50も参照.
COM. ―― 3. ポンペイウスの柱廊:前55年に,ポンペイウスによって劇場とともに建てられた柱廊.Cf. Ov. Ars Am. I 67. 4. イーナコスの娘の閾:イーシス神殿のこと.イーナコスの娘はイーオーで,ここではそれがイーシスと同一視されている. 5. 泥:ceroma. ギリシア語でκήρωμαで此処での意味は‘layer of mud or clay forming the floor of the wrestling-ring in the times of the Empire’(LSJ s. v. 2). 6. ウィルゴー水道:アグリッパによって前19年に完成された水道.マールキア水道が飲用として有名であった一方,こちらは浴用として名高かったらしい(Plin. NH XXXI 42).
COM. ―― 1. キケローの地所:キケローの別荘は主要なものとしては7つ(トゥスクルム,アルピーヌム,フォルミアエ,クーマエ,アンティウム,ポンペイイー,アストゥラ)があり,ここで言われているのがそのどれであるかはっきりはしないが,恐らくクーマエのそれかと思われる. シーリウス:シーリウス・イタリクスのこと.彼はウェルギリウスを崇敬していた(Plin. Epist. III, 7).XI, 50(49)も参照. 2. マロー:ウェルギリウスのこと.
COM. ―― 1. マロー:ウェルギリウスのこと.シーリウス・イタリクスは彼を崇敬していた(Plin. Epist. III, 7).XI, 48も参照. 3f. シーリウスが……崇めている:伝承本文が破損している.訳は の校訂本文による. †愛おしき†:optatae. はoptatus《待ち望まれた》が親愛を表す言葉として理解できるとするが, は疑義を呈し,Ribbeckの修正案としてorbataeを採用する( もLoeb版ではこれを採用する).その場合のorbatusの意味は《親類を奪われた》というより《見捨てられた,悲惨な》くらいか.もっともRibbeckの修正には次行の冒頭をfilius utに改めることも含まれていて( Prolegomena critica ad P. Vergilii Maronis opera maiora, Lipsiae, 1866: 123f. Google_Books),そうするとシーリウスとウェルギリウスとをさながら血縁関係にあるかのように結びつける表現としてorbatae, filiusを考えることができる. 助けることに決めた:succurrere censuit. はこのようなcensere + inf.が《決める,望む》のような意味になるか疑義を呈しているが,ThLL s. v. II B 2 b(795. 72ff.)にvelleと同義になるケースが,この箇所とともに集められている(尤もコルメッラのものを除くと古典期以外の用例だが). 4. 詩人の彼が,かの詩人を:et vates vatem. および による修正案.
COM. ―― 1. カイレーモーン:アレクサンドリア出身でネローを教えたとされる人物. 8. 藁:粗末な食べ物を指して言うか. 黒ずんだパン:おおよそパンの分類は品質に応じて3つ,(a)panis candidus, siligineus, mundusと呼ばれるもの,(b)panis secundarius, sequensと呼ばれるもの,(c)panis cibarius, plebeius, sordidus, ater, niger, durusと呼ばれる質の悪いものがある. 9. レウコニアの羊毛:レウコニアは羊毛で名高いガッリアの一地方. 11. カエクブム産の酒:カエクブムは酒の産地として有名. 15. 生を軽んじる:contemnere vitam. 16. 惨めでも……勇敢なのだ:fortiter ille facit qui miser esse potest. Cf. ‘saepe impetum cepi abrumpendae vitae: patris me indulgentissimi senectus retinuit. cogitavi enim non quam fortiter ego mori possem, sed quam ille fortiter desiderare non posset. itaque imperavi mihi ut viverem; aliquando enim et vivere fortiter facere est.’ (Sen. Epist. 78, 2).
COM. ―― 1f. 全部の指に六つも指輪を嵌めて:古い時代には男子がひとつより多くの指輪をつけるのは好ましくないとされた(Isid. Etym. XIX xxxii 4).ホラーティウスの詩には3つも指輪をつけた人物が出てくる(Hor. Sat. II vii 8f.).
COM. ―― 1. プロギスとキオネーと:娼婦の名.いずれもギリシア語で,φλόξ《炎》,χιών《雪》に由来し,以下で述べられる両者の性質の違いを予期させる. 2. 疼き:ulcus. 強い性的欲求・積極性.‘nam proprie robigo est, ut Varro dicit, vitium obscenae libidinis, quod ulcus vocatur.’ (Serv. ad Georg. I. 151). 「疼き」とその治癒という医療的文脈もまたこのエピグラムの中で重要になる. 3. ふにゃちん:aluta. Cf. , LSV 40f. 6. ヒュゲイア:Hygia. あるいはヒュギエイアはアスクレーピオスの娘の名. 8. 大理石を:キオネーという名前から連想される白さとつながる.
COM. ―― 2. 私の望み:マローが死ぬこと.
2017/04/10
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