Leopardi, G., Canti

XXI
シルヴィアに


シルヴィアよ,君はまだ
覚えているか,君の死すべき生のあの時を,
君が微笑み,はにかんだ
その眼のうちに美しさが輝いていて,
君が楽しげにまたもの思わしげに
5

青春の閾を超えて行こうとしていた時を.

静かな部屋と
あたりの道には
途切れない君の歌声が響いていたものだ,
椅子に腰掛け,女たちの仕事に
10

集中しているときには.
そして心に抱く
漠とした将来に満ち足りていたのだ.
それは芳しき五月のこと.君はそうして
一日を過ごすのが常だった.
15


私はときに学問と
汗水を注いだ書物とを脇へやり――
そこには我が青春と
我が最良の部分が費やされた――
父の家の露台の上から
20

君の歌声へと耳を傾けた,
そして難儀な織機に
走るすばやい手の立てる音にも.
私は眺めた,晴れた空を,
陽光で金色に輝く道と菜園を,
25

はるか彼方には海を,此方には山を.
そのとき私が胸のうちに感じたことは
死すべき人の言葉では語れない.

何と甘美な想いだったことか,
何という希望,何という心持ちだったことか,我がシルヴィアよ.
30

あのとき私たちには,人の生と
運命とがどんなふうに映ったことか.
これほどの希望を思い出すと
辛く慰めのない
感情が私にのしかかり,
35

己が不幸を再び嘆かせるのだ.
ああ自然よ,自然よ,
何故かつて約束したことを
後になって翻すのか.何故これほどまで
己が子らを欺くのか.
40


君は,冬が草木を枯らすよりも前に
隠れた病に侵され敗れて,
ああ年若くして息絶えた.君の年月の
花盛りを見ることもなかった.
その黒い髪や
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愛情に満ちた控えめな眼差しを称える
甘い言葉が君の心をくすぐることもなかった.
祭りの日に恋を語り合う
友達もなかった.

やがて私の甘い望みも
50

潰えた.我が年月にもまた運命は
青春を拒んだのだ.ああ君は
過ぎ去ってしまったのだ,
若き日の愛しき伴よ,
涙ながらに惜しむべき我が希望よ.
55

これがこの世というものか.これが,
私たちがともにあれほど語り合った
喜び,愛,営み,出来事なのか.
真実が顕れるときに
哀れにも君は潰えた.そしてその手で
60

冷たい死と露わになった墓とを
遠くから指し示したのだ.

COM. ―― 7. 途切れない歌声:『アエネーイス』第7巻でキルケーが《絶え間ない歌を森に響かせる》(Solis filia lucos | assiduo resonat cantu, Verg. Aen. 7. 11f.)とあり,また織仕事の間に歌で労苦を慰めるのは『農耕詩』にも見える描写(Verg. Georg. 1. 293f.). 19. 我が最良の部分:同じ表現がPetr. Rvf. 37. 52にも出てきて,そちらでは《心》を指す. 30. 何と言う心持ちだったことか:Cf. quis tibi tum, Dido, cernenti talia sensus (Verg. Aen. 4. 408). 42. 隠れた病:底本の註釈は結核のことであるという. 52. 君は……:これ以下,「君」と呼びかけられるのは「希望」だが,シルヴィアと重ねられているようにも取れる.

2016/09/22


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