Housman, A. E., Last Poems


X

もしも酒や恋や争いに
 いつでも酔って居られるならば
朝起きるのも夜横たわるのも
 私は厭わずできるのだろう.
けれども人は時として
5

 素面に戻り,ふと考える.
そして人は考えるとき,
 その手を胸の上に置く.

XVII
天文学

北斗七星は北の涯に
 沈み,消えていく.
おお,私は座して涙しよう,
 アフリカに眠る骨のため.

給金や勲章,名声や階級,
5

 そして見たことのないもののため
彼は南十時を天に掲げて
 北極星を地に沈めた.

そして今は見ることさえないのだ,
 彼が北極星と共に埋められた
10

大地の上を,夜,
 南天の星座が廻っていくのを.

XXVIII


もう決して起き上がることのない貴方の横たわる
 その草の葉を波立たすため息は
通り過ぎていく風のもの,
 そして私にはそれがため息かもわからない.

草地の上,ささやかな貴方の塚を
5

 飾るダイヤモンドの涙,
その涙を流す朝は,
 しかし貴方のために泣くのではない.

XXXV


私がはじめて祭に行ったとき
 財布のうちには僅かの金しかなく
ただずっと立ち尽くして,買うことの
 出来ないものを眺めていたものだ.

今や時は変わり,何か買おうと
5

 思えば買うことができる.
金ならあるし,今は祭のとき.
 だがあの失われた若者は何処に?

二と二を足せば四となり
 三にも五にもならぬと考え,
10

人の心はながらく苦しんできた.
 それはこれからもずっとそうなのだろう.

COM. ―― Cf. Greek Anthology, IX, 138. Ἦν νέος, ἀλλὰ πένης· νῦν γηρῶν πλούσιός εἰμι ...


XLI
想像の弔鐘


クリー丘のふもと,アブドンの村,
 若者たちは仕事を終え,家へと帰ると
一人が隣人に声をかけ,
 二人して私を呼びに来たものだ.
そして陽光が槍のごとく
5

 草原を横切り伸びるとき,
そこで私は踊りに合わせ
 笛を執り奏でるのだった.

私たちの楽しみは他愛のないものだった,
 だがそれでも満ち足りていたのだ,
10

若者たちは調べを奏でることに,
 老人たちは耳を傾けることに.
そして私は奏でつつ
 木や塔や崖から
揺蕩う光を持ち上げることに,
15

 笛を吹いて太陽を眠らせることに.

若者は想い人の方へと
 小麦色に焼けた顔を向け,
トムはナンシーと組み,
 ディックはファンと一緒に踊った.
20

娘は相手の目を見上げ
 二人とも黙っているのだった.
夕暮れ時,笛の音に合わせて
 楽しく踊りを踊ったものだ.

ウェンロック・エッジは暗く翳り,
25

 アブドン・バーフは輝いていた,
そしてその間には幾哩もの滑らかな
 緑の草地が温かくまどろんでいた.
やがて芝生とクローバーから
 最後の陽光が退いていき
30

イングランドの上に
 聳える影が進んでくるのだった.

聳える影が進んでくる,
 私は笛を執り奏でる.
おいで,若者たちよ,踊りを学び,
35

 今日,調べを称えたまえ.
明日,悲しみは一層多く,
 我らはどちらも急ぎ去らねばならぬ,
歌は空へ,
 私は大地へ.
40


 

COM. ―― 想像の弔鐘:Fancy's Knell. この題はおそらくShakespeare, The Merchant of Venice, III ii 70による.バサーニオーが箱を選ぶ間にポーシアが歌う詩で,上辺の魅力に捕らわれることを戒める内容.そこでのfancyは《浮気心》に近い.このHousmanの詩でも17行の《想い人》の原語はfancyなのだが,上手く合わせる訳語を案出できなかった. 5. 陽光が槍のごとく:Cf. lucida tela diei (Lucr. DRN I 147 etc.) 17. 想い人:fancy. 此処での意味はsweetheartと同じ.


2016/08/26

2017/04/23


▲戻る