M. Tvllivs Cicero, Epistulae ad familiares

XV 18


46年12月 ローマにて
キケローからガーイウス・カッシウスへ


 [1]君のところへ人をやる丁度のときに求められたのでなかったら,この手紙はもっと長いものになっていただろう ――あるいは何か無駄話(φλύαρος)があってももっと長くなったことだろう. 実際我々には危険を冒さずに真剣な事柄を話す(σπουδάζειν)なんてとうてい無理なことだから. 「ならば笑うことなら出来るだろうか」と君は言うだろうが,これとて誓って容易なことではない. それでも実際のところ我々には煩わしい事柄からの気晴らしになるものは他に何もない. 「哲学は何処に行ったのか」と君は言うだろう.なるほど君の哲学は台所にあるが,私のはガミガミ煩いのだ.奴隷になるのはみっともないことだから. なのでプラトーンのお説教を聞くことにならないよう,他のことに従事している風を装っている.
 [2]ヒスパーニアについては今のところ何も確かなことはなく,新しいことも全く何もない.君がローマにいないのは私にとっては辛いことだが,君のためを思うと喜ばしい. しかし配達人が急かしてくる.元気でいてくれ,そして幼少の頃と同じように私を愛してくれ.

COM. ―― ガーイウス・カッシウス:C. Cassius Longinus. 内乱時にはポンペイウス陣営について戦い,その後カエサルから恩赦を受けた.カエサル暗殺の中心人物となる. 1. 君の哲学は台所にある:tua quidem in culina. 「胃袋の悦びはすべての善いことの始まり」というエピクーロスの哲学を念頭においていると思われる. 私の:アカデーメイア派の哲学. プラトーンのお説教:Plat. Rep. 387Bのὅσῳ ποιητικώτερα, τοσούτῳ ἧττον ἀκουστέον ... οὕς δεῖ ἐλευθέρους εἶναι, δουλείαν θανάτου μᾶλλον πεφοβημένους《それらが詩的に巧みであるだけ一層,詩よりも隷属を恐れて自由であらねばならぬ人々はそうした詩句を聞くべきではない》という箇所が考えられているか. 2. ヒスパーニアについては:このときヒスパーニアではカエサルがポンペイウスの息子の率いる勢力と戦いを行っていた.

2017/03/28


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