M. Tvllivs Cicero, Epistulae ad Atticum

XV 1a


44年5月18日 シヌエッサの屋敷にて
キケローからアッティクスへ


 [1]昨日はプテオリーの別荘を離れる際に君へ手紙を送り,クーマエの別荘を訪れた. そこでピーリアに会ったが,彼女はとても元気にしていた.そればかりか,そのすこし後にはクーマエの街中でも彼女に会った. 私も参列した葬式に彼女も来ていたのだよ.我らの友人グナエウス・ルッケイウスが母の葬儀を行ったのだ. それでその日はシヌエッサにある屋敷に泊まり,翌日アルピーヌムへ発つにあたってこの手紙を書いた次第だ.
 [2]ところで,私が何か書いたり君に尋ねたりせねばならぬ新しいことは何もないのだが,ただもしかすると次のことを君は大事だと思うかもしれない. 我らがブルートゥスが,カピトーリウムの集会で行った演説を私のところに送ってきて,公表するに先立ち忌憚なく修正してほしいと頼んできたのだ. それは内容の点でも語彙の点でも推敲の限りを尽くして書かれた演説で,これ以上のものは何もないくらいだった. もっともああした主張を行うのが私だったなら,もっと熱烈な書き方をしただろうが. 語り手の主題(ὑπόθεσις)や役割(persona)がどんなものかは君も知ってのとおりだ.だから私には修正できなかった. 実際,ブルートゥスが目指すところの文体(genus),また彼がものを言う最良の文体について持っている考えを, 彼はその演説の中でこれ以上洗練されたものもないほどに実現していた. 一方,私が目標としたのは――正しいにせよ正しくないにせよ――それとは別のものだ. だがともかく,もしまだ読んでいないようならば,君にも演説を読んでほしい.そして君としてはどう判断するか私に知らせてくれ. 君が自分の名前のために判断に当たってあまりにアッティカ寄りになりはせぬかと心配ではあるが. しかしデーモステネースの稲妻のことを思い起こせば,この上なくアッティカ風に(Ἀττικώτατα)且つこの上なく荘重に語ることも出来るとわかるだろう. だがこうしたことは直接会ってにしよう.今は,君の許にメトロドールスを行かせるにあたり,手紙を持たせないのも,中身のない手紙を持たすのも忍びなかったのだ.

COM. ―― 1. ピーリア:アッティクスの妻. グナエウス・ルッケイウス:Cn. Lucceius. ブルートゥスの友人.Shackleton Baileyの修正で,写本はより一般的な名前のLucullusになっている. その日:17日. 翌日:手紙を書いている18日. 2. カピトーリウムの集会で行った演説:3月16日,カエサル暗殺の翌日に行われた演説.Cf. Appian. B. civ. 2. 137ff. ブルートゥスが目指すところの文体:ブルートゥスは簡素で平明な,いわゆる「アッティカ風」文体を好んだ. 自分の名前のために……あまりにアッティカ寄りὑπεραττικός《過度にアッティカ的な,アッティカ贔屓の》.アッティクス(Atticus)の名前とかけた洒落になっている.

2017/03/28


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