私が思い上がりや頑なさのために口を噤んだままでいるとは
思わないでほしい．我が身のかくも虐げられている様を
目の当たりにして，苦悩のために心を引き裂かれているのだ．
だがこの新しい神々に特権を万事よろしく
割りあてたのはこの私を措いて他に誰があろうか．
しかしそのことについては黙るとしよう．語ったところでお前たちには
もう判っていることだろうからな．それより人間たちの不幸を
聞くがよい，以前には無知蒙昧であった彼らを
私がどうやって理性的な，心あるものにしたのかを．
人間たちに難癖をつける気はないが，私が
授けてやったものに込めた好意を説いて語るとしよう．
はじめ彼らは見えてはいても見えるだけ無駄で
聞こえてはいても聴いてはおらず，夢幻の姿にも似て
生きている間ずっと全てを無茶苦茶に
混乱させていた．彼らは煉瓦造りの暖かな
家屋も，木造の技術も知らないまま
洞窟の中に住んでいて，さながら日の当たらぬ
穴ぐらの奥底の，軽々と動く蟻たちのようだった．
また彼らには冬の寒さや花咲く春や
実りもたらす夏を告げる確かな徴は
何もなく，全てのことを考えなしに
行っていたのだ，私が彼らに見分け難き
星々の昇りと沈みを教え示してやるまでは．
更にまた数――工夫のうちでも至高のもの――を
彼らのために案出してやった．それから詩ムーサを生み出す匠なる，
全てを記録する文字を組み合わせる技術もだ．
また獣を軛につなぎ，首輪と鞍に
従わせ，人間にとっての一番大きな
労苦を受け継ぐようにしてやったのも
私が最初．そして手綱を好む馬，この並外れた
財産の象徴を車の下に導いたのもこの私．
更に海を行き交い麻の翼もつ，水夫の乗物を
発明したのも私以外の誰でもない．
こうした工夫を人間たちに見つけ出してやった
私だが，哀れにも自分自身はと言えば，
この現今の苦境を脱する策を持ち合わせていないのだ．

あなたが苦しむ様は見苦しいもの．分別を失い
惑っておられる．まるで下手な医者のように
病に陥って，ご自分がどんな薬によって
癒されうるのか見出すことが出来ない様子．

残りの話を私から聞けばもっと驚くであろう，
私がどんな技術や方策を考え出したかと．
何より大事なことだが――以前は誰かが病に陥っても
防護策として食べるものも塗るものも飲むものも
何ひとつなく，薬の欠如のせいで彼らは
衰え朽ち果てていくのだった，私が彼らに
あらゆる病から身を守り痛みを和らげる
治療薬の調合法を教えてやるまでは．
また多岐にわたる占いの作法を整理したのも，
夢のうち現実になる定めのものを判じたのも，
見極めがたい言葉の端に現れる予兆や
道の上に現れる徴を知らしめたのも，
曲がった爪もつ鳥たちの飛び方――
その性質が吉兆のものも凶兆のものも
含めて――やその各々がもっている習性，
その相互の間にどんな敵対関係，
友愛，共存があるのか，
また腸はらわたの滑らかさや，どんな色の
胆嚢が神々の意に沿うものか，肝臓の葉の
斑になった好もしい形をはっきり示したのも私なのだ．
脂でくるんだ腿と長い背骨を
焼いて，判じ難いこの技術へと人間たちを
導いた．そして以前には白く霞んで見えなかった
火の徴にも眼を開いてやったのだ．
これらについてはそんな具合だ．他方で大地のうちに
隠された，人間たちに助けとなるもの，
すなわち銅や鋼，銀や金，これらを
私より前に見つけたと誰が言えようか．
誰もいないことはよく判っている――無駄口を叩きたがる輩でなければな．
手短な言葉で全てを一括りに知るがよい，
人間たちのありとあらゆる技術はプロメーテウスに由来することを．

度を越して人間たちを援けるのはお止めください，
そしてご自身の逆境を顧みてください．と言いますのは
貴方がこの縛めから解放されて，ゼウスに
劣らぬ力を得るという良き望みを懐いておりますゆえ．

そのことがそんな風に実現するとは，終わりもたらす
運命女神モイラの定めるところではない．私が縛めを逃れられるのは
無数の苦しみと災難にこうして身を屈した末のこと．
技術とは運命さだめに比すれば遙かに無力なものなのだ．

すると，その運命の舵取役とは誰なのですか．

三体の運命女神らと記憶良きエリーニュスらだ．

では，ゼウスは彼女らよりも無力ということですか．

そうだ，彼も定められたことからは逃れられぬだろう．

永遠に支配すること以外にゼウスには何が定められているのですか．

それはもう聞かせてはやれぬこと．迫ってくれるな．

思うに貴方が隠しておられるのは何やら恐ろしいことのよう．

その話は忘れてくれ．これは今語り明かすべきものでは
決してなく，なるべく隠しておかなくては
ならない話なのだ．これを大事に守ってこそ私は
不面目な縛めと災難から逃れ出せるのだから．