Petrarca, F., Canzoniere
336
わが心のうちに甦る,否,その内にあり続けるのは
忘却によって拭い取られることのない彼女の姿,
私が青春のときに目にしたままの様子で,
星の放つ光にその全身は輝いている.
4
はじめて出会ったときの美しく高貴で,
また慎ましやかで寂然とした姿を見て私は声が漏れる,
「あれはまさしく彼女,まだこの世の人であったか」と.
そして甘美な言葉という贈物を求めるのだ.
8
彼女はときに応え,またときに言葉を返さず,
私はさながら彷徨った後に正気へ還る人のように,
自らの心に語りかける,「お前は幻に欺かれたのだ.
11
知っているだろう,1348年の
4月6日,朝のはじめの時に,あの至福なる
魂が肉体を離れ去ったことは」と.
14
COM. ――
1. 心の……続けるのは:《心》はmenteで,《記憶》(memoria)と関連付けられた(cf. Isid. Etym. XI i 13).
2. 彼女の姿:ラウラの姿.
4. 星の放つ光に:愛の女神ウェヌスの星,つまり金星の光.
6. 慎ましやかで寂然とした: in sé raccolta, et sì romita.
12-14. 知っているだろう……離れ去ったことは:ラウラの死の時が具体的な日時と共に明示される.他方Rvf. 211, 12-14ではラウラとの出会いの日が同様に示される.
2017/07/11
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