Petrarca, F., Canzoniere

211


「望み」が私を刺激して,「愛」が私を導き付き添う.
「喜び」が私を惹き寄せて,「慣習」が私を連れていく.
「期待」が甘くささやき私を励まして,
疲れ果てた心に右手を差しのべる.
4


哀れな心はその手を取るも,我が身に付き添う
盲目で不実な伴には気がつかない.
感覚が支配し,理性はすでに死に絶えていて,
覚束ない望みから更なる望みが起きてくる.
8


麗しき枝木の徳や誉れ,美しさ,
高貴な振舞い,甘美な言葉が私を捕らえ,
心は心地よくも罠にかかるのだ.
11


1327年の4月6日,まさしく朝の
はじめの時に,私は迷宮へ入り込み,
今もその出口はわからぬまま.
14


COM. ―― 6. 盲目で不実な伴:愛神.1行目の《「愛」が私を導き付き添う》参照. 9. 麗しき枝木:月桂樹の枝.つまりラウラのことを指している. 12-14. 1327年の……わからぬまま:ラウラとの出会いの日.Rvf. 336, 12-14ではラウラの死の日が同様にして示される.ペトラルカの有していたウェルギリウスの写本(Ambrosianus S. P. 10/27)にはラウラとの出会いとその死の日付けが書き付けられている. ‘Laurea, ..., primum oculis meis apparuit sub primum adolescentie mee tempus, anno Domini mo iiic xxvij die vjo mensis Aprilis in ecclesia sancte Clare Avin. hora matutina; et in eadem civitate eodem mense Aprili eodem die secto eadem hora prima, anno autem mo iijc xlviijo ab hac luce lux illa subtracta est.’

2017/07/11


▲戻る