Petrarca, F., Canzoniere

186


勇猛なるアキッレウスの名高き墓へと着いて
アレクサンドロス大王は嘆息まじりにこう言った,
「幸いなるかな,かくも澄みわたる喇叭の響き,
かくも気高く汝を歌う者を手にするとは」
4


だがこの無垢で白く輝く鳩は――
この世にこれと並ぶものがかつてあったかわからない――
私の脆弱な文体のうちでは満足に鳴り響くことがない.
其々の命運はこのように定められて動かないのだ.
8


実際,彼女はホメーロスやオルペウス,
あるいは今なおマントヴァが称える牧人に相応しく,
彼らは彼女ひとりを歌い続けることだろう.
11


異なる星と,ただここにおいてのみ邪なる運命が
託したのだ,彼女の麗しき名を崇めるも,
語ればその誉れを翳らせてしまう者に.
14


COM. ―― 3f. 澄みわたる……歌う者:叙事詩『イーリアス』とその作者としての詩人ホメーロス. アレクサンドロス大王のエピソードはキケロー『アルキアース弁護』に見える(Cic. Arch. x 24)ほか,ペトラルカ『アフリカ』にも ‘Macedum rex magnus amici | forte videns saxum Eacide titulosque sepulcri, | «fortunate» inquit «iuvenis, cui nominis illum | preconem reperire fuit» ’ (Afr. IX 51-54)とある. なお,《嘆息まじりに》というのはキケローなどに見えないが,ヴァチカン写本のキケロー弁論集(Vat. pal. lat. 1820; f. 128v DVL)の問題の箇所欄外にAllexander, Allexandri suspiriumという書き込みがある. 5. 無垢で白く輝く鳩:ラウラ. 8. 其々の命運は……動かないのだ:ホメーロスという優れた詩人を得たアキッレウスとラウラとの境遇の対比. 10. 今なおマントヴァが称える牧人:ウェルギリウス.《牧人》と言ったのは『牧歌』の著者であることのため. 12. 異なる星:Cf. Rvf. 186, 9-11. ただここにおいてのみ邪なる運命:つまりラウラを称えることを菲才の詩人としてのペトラルカに託したことを指して. 13f. 彼女の麗しき名を……翳らせてしまう者:ペトラルカ.

2017/07/25


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