鳥跡詩集
與讒夫
仁義消除幾許長
痴人得恵好遺忘
蒼蠅棄恥紆籌策
獨想屈平空断腸
仁義 消除して幾許か長き
痴人 恵を得て遺忘を好み
蒼蠅 恥を棄てて籌策を紆らす
獨り 屈平を想いて空しく断腸す
六月偶成
庭中樹下紫陽花
戸外秧田両部蛙
独坐文房慵展巻
微風雑雨透窓紗
庭中の樹下 紫陽の花
戸外の秧田 両部の蛙
独り文房に坐すも 巻を展べるに慵く
微風 雨を雑えて 窓紗に透る
春日堀川尋桜花
佳日堀川携杖尋
桜花碧水既春深
跫然客到復充径
人語瀬声皆好音
佳日 堀川 杖を携えて尋ぬれば
桜花 碧水 既に春深し
跫然として客到り 復た径を充たし
人語 瀬声 皆好音
無題
九重天与七遊星
光彩陸離充紺青
莫笑詩中摸上界
庶幾君永下方停
九重の天と七遊星
光彩 陸離として紺青を充たす
笑う莫れ 詩中に上界を摸するを
庶幾わくは 君の永く下方に停まらんことを
無題
遁世幽荘裏
稀人地自閑
庭前聞鳥語
窓外望南山
空際孤雲尽
林中流水還
身材為古木
方寸到仙寰
世を遁れて 幽荘の裏
人稀にして 地自ずから閑なり
庭前 鳥語を聞き
窓外 南山を望む
空際 孤雲 尽き
林中 流水 還る
身材 古木と為り
方寸 仙寰に到る
春日偶成
流鶯多語満空堂
院裏梅花放暗香
午睡夢回慵坐起
清風透帳払顔長
流鶯 語多くして空堂を満たし
院裏の梅花 暗香を放つ
午睡 夢回りて 坐起するに慵く
清風 帳に透り 顔を払うこと長し
菅廟尋梅
菅廟衆多春已帰
尋花散策日光遅
憂心棄稿空悲嘆
窃落瓊華那得知
菅廟 衆多く 春已に帰す
花を尋ねて 策を散じれば 日光遅なり
憂心 稿を棄てて 空しく悲嘆す
瓊華 窃かに落つるも 那んぞ知るを得んや
偶成
弱羽只今三十年
蟹行文字萬余篇
徒蔵典籍無知意
且飲瓊漿欲得眠
弱羽 只今 三十年
蟹行文字 萬余の篇
徒に典籍を蔵して 意を知ること無く
且くは瓊漿を飲んで 眠りを得んと欲す
春日偶成
院裏鶯多語
夢回春日斜
詩書慵懶展
俯飲一杯茶
院裏 鶯に語多く
夢回りて 春日 斜めなり
詩書 展げるに慵懶にして
俯して飲む 一杯の茶
春日偶成
午眠一覚日西斜
隠几而嘗半盞茶
漫展詩書無得悟
恍然隔牖眺梅花
午眠 一たび覚めれば 日は西に斜めなり
几に隠りて 半盞の茶を嘗める
漫ろに詩書を展げて 悟りを得ること無く
恍然として牖を隔てて梅花を眺む
自芸窓望洛中残雪
晨起開窓望洛陽
鴨東残雪映朝光
寒風颯颯掃書室
心地醒然俗慮忘
晨に起き 窓を開いて洛陽を望む
鴨東の残雪 朝光に映える
寒風 颯颯 書室を掃えば
心地 醒然 俗慮を忘る
無題
碧山春色穏
鳥影絶虚空
倚杖而回首
一村煙靄中
碧山 春色 穏やかにして
鳥影は虚空に絶える
杖に倚りて 首を回らせれば
一村 煙靄の中
冬夜偶成
臘月寒彌勝旧冬
凄風披払戸庭松
囲炉辺且執杯酒
独座胡床待一春
臘月 寒は彌旧冬に勝り
凄風 披払す 戸庭の松
炉辺を囲んで 且く杯酒を執り
独り胡床に座して 一春を待つ
冬夜読書
冬夜幽斎読古詩
披繙万巻忘何時
凄凄冷気俄包体
驚見書窓雪陸離
冬夜の幽斎 古詩を読む
万巻を披繙し 何時かを忘る
凄凄たる冷気 俄かに体を包めば
驚き見る 書窓に雪陸離たるを