鳥跡詩集
無題
遁世幽荘裏
稀人地自閑
庭前聞鳥語
窓外望南山
空際孤雲尽
林中流水還
身材為古木
方寸到仙寰
世を遁れて 幽荘の裏
人稀にして 地自ずから閑なり
庭前 鳥語を聞き
窓外 南山を望む
空際 孤雲 尽き
林中 流水 還る
身材 古木と為り
方寸 仙寰に到る
春日偶成
流鶯多語満空堂
院裏梅花放暗香
午睡夢回慵坐起
清風透帳払顔長
流鶯 語多くして空堂を満たし
院裏の梅花 暗香を放つ
午睡 夢回りて 坐起するに慵く
清風 帳に透り 顔を払うこと長し
菅廟尋梅
菅廟衆多春已帰
尋花散策日光遅
憂心棄稿空悲嘆
窃落瓊華那得知
菅廟 衆多く 春已に帰す
花を尋ねて 策を散じれば 日光遅なり
憂心 稿を棄てて 空しく悲嘆す
瓊華 窃かに落つるも 那んぞ知るを得んや
偶成
弱羽只今三十年
蟹行鳥跡萬余篇
徒蔵典籍無知意
且飲瓊漿欲得眠
弱羽 只今 三十年
蟹行鳥跡 萬余の篇
徒に典籍を蔵して 意を知ること無く
且くは瓊漿を飲んで 眠りを得んと欲す
春日偶成
院裏鶯多語
夢回春日斜
詩書慵懶展
俯飲一杯茶
院裏 鶯に語多く
夢回りて 春日 斜めなり
詩書 展げるに慵懶にして
俯して飲む 一杯の茶
春日偶成
午眠一覚日西斜
隠几而嘗半盞茶
漫展詩書無得悟
恍然隔牖眺梅花
午眠 一たび覚めれば 日は西に斜めなり
几に隠りて 半盞の茶を嘗める
漫ろに詩書を展げて 悟りを得ること無く
恍然として牖を隔てて梅花を眺む
自芸窓望洛中残雪
晨起開窓望洛陽
鴨東残雪映朝光
寒風颯颯掃書室
心地醒然俗慮忘
晨に起き 窓を開いて洛陽を望む
鴨東の残雪 朝光に映える
寒風 颯颯 書室を掃えば
心地 醒然 俗慮を忘る
無題
碧山春色穏
鳥影絶虚空
倚杖而回首
一村煙靄中
碧山 春色 穏やかにして
鳥影は虚空に絶える
杖に倚りて 首を回らせれば
一村 煙靄の中
冬夜偶成
臘月寒彌勝旧冬
凄風披払戸庭松
囲炉辺且執杯酒
独座胡床待一春
臘月 寒は彌旧冬に勝り
凄風 披払す 戸庭の松
炉辺を囲んで 且く杯酒を執り
独り胡床に座して 一春を待つ
冬夜読書
冬夜幽斎読古詩
披繙万巻忘何時
凄凄冷気俄包体
驚見書窓雪陸離
冬夜の幽斎 古詩を読む
万巻を披繙し 何時かを忘る
凄凄たる冷気 俄かに体を包めば
驚き見る 書窓に雪陸離たるを