Petrarca, F., Canzoniere

194


山間の雲を晴らし,この影深い森に
花を目覚めさす高貴な微風ラウラ
心地よき息吹に私はそれを知る.
苦しみや名声の山を登らねばならぬのもその微風のため.
4


疲れた心を休ませるための場所を見出そうと
我が故郷なるトスカーナの心地よき大気を離れ去る.
暗く濁った想いに光を差し入れようと
我が太陽を探し求め,今日もそれを見たいと願う.
8


その太陽のうちに私が味わう甘美は甚だしく,
「愛」が無理矢理にそこへと私を連れ戻すほど.
そうして目は眩み,逃げ出すにも時すでに遅し.
11


逃れるために,武器ではなく,翼がほしい.
だが天は私をこの光によって滅びるままにする――
つまり離れれば苦しみ,近づけば燃え上がるのだ.
14


COM. ―― 2. 微風L'aura. ラウラ(Laura)との音の類似による暗示. 4. 苦しみや名声:愛の苦しみと,ラウラを詩のうちに歌うことで得られる名声. 6. 我が故郷なるトスカーナ……:イタリアを離れてプロヴァンス地方へと. 8. 我が太陽:ラウラのこと. 10. 「愛」が無理矢理に……連れ戻すほど:ch'Amor per forza a lui mi riconduce. 愛神に捕らわれてラウラという太陽へ向かう詩人の姿は,中ほどの道を行け(medioque ut limite curras Ov. Met. VIII 203)と忠告するダイダロスに背いて《天への愛に引かれてあまりに高い道を往った》(caelique cupidine tractus | altius egit iter, Ov. Met. VIII 224f.)イーカロスの姿と重なるようにも思われる.そうした含みがあるとすると,12行目の翼を欲する願いの空しさが際立つかもしれない.

2017/07/20


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