Petrarca, F., Canzoniere

33


すでに東の方では愛の星が
燃え煌き,またユーノーを絶えず
嫉妬させるいまひとつの星は北の方に
美しく輝いてその光をめぐらせていた.
4


老婆はみすぼらしい着物で裸足のままに
糸を紡ぐため身を起こし,炭の火を目覚めさせ,
常々恋人たちに涙を流させる
この時間が彼らを苛んでいた.
8


すでに終端へと至った我が希望が,
そして涙に濡れた苦しみが,わが心へと達した
その道は,眠りに閉ざされたいつもの道にはあらず.
11


ああ,その姿は以前とどれほど変わってしまったことか.
そしてこう言うようだった,「なぜ元気をなくしているの,
もうこの眼を見ることができぬわけでもないのに」と.
14


COM. ―― 1. 愛の星:ウェヌスの星,すなわち金星. 2f. ユーノーを絶えず嫉妬させるいまひとつの星:おおぐま座.ヘーラー(=ユーノー)の嫉妬のため熊の姿にされたカッリストーが死後ゼウスによって星座にされた. 6. 糸を紡ぐため……目覚めさせ:Cf. Verg. Aen. viii 407 - 410. 7. 恋人たちに涙を流させる:夜眠っている間は恋の苦しみから離れているため. 9. 終端へと至った:condotta al verde. 文字通りには《緑へ至った》.当時のロウソクには終端に緑色の部分があって,白い部分が燃え切り炎がそこに至ることをこのように言ったらしい. 我が希望:ラウラ. 10. 涙に濡れた苦しみ:'l dolor molle. molleは《やわらかな,快い》という風にも読めるが,《(涙に)濡れた》と解する. 11. 眠りに閉ざされたいつもの道:すなわち眼のこと.普段は眼を通って心へいたるが,今は夢に現れたためこのように言う.

2017/02/01


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